【Mizuno-CH中国・ベトナムビジネス情報】ダイジェスト版Vol.84

2023-05-23

【中越ビジネスマニュアル 第 84 回】

中国・ベトナムにおける記帳通貨と外貨会計について

記帳通貨と外貨会計について、中国・ベトナムの状況を解説します。

■ 1.中国

(1)記帳通貨

記帳通貨に関しては、企業会計準則に以下の通り規定されています。

● 企業は通常、人民元を記帳通貨としなくてはならない。業務収支が人民元以外の通貨が主となる企業は、そのうち1種類の通貨を選定して記帳通貨とすることができる。ただし、作成される財務諸表(注:税務局に提出する会計報告)は、人民元に換算されたものでなければならない。

つまり、人民元のみならず、外貨を記帳通貨とすることもできますが、いったん記帳本位通貨を選択したら、原則としてこれを変更することはできません。

どのように記帳通貨を決定するかですが、基本的には「主要取扱通貨」に基づくのが妥当です。つまり、人民元の債権・債務が大半を占める場合は人民元、米ドル・日本円などの取り扱い、債権・債務残高が大半の場合は外貨(米ドルもしくは日本円など)とすることで、為替評価損益の発生をミニマイズすることができます。

ただし、実務上、取引が極端に制限される企業(例えば、売・仕入が特定外貨で固定されている進料加工企業など)以外は、主要取扱通貨の決定は困難です。そのような場合は、人民元を記帳通貨とした方が、会計・税務処理はやりやすいでしょう。

(2)外貨会計

外貨の計上は、取引発生時の公表為替レート(原則として仲値)を使用して、記帳通貨に換算しますが、代替するレートの使用も認められています。

代替レートは、企業会計準則には、近似するレートとのみ記載されていますので、月初、前月末、週単位のレートなどの採用が考えられます。

また、中国の会計規則上、月次換算替えが義務付けられます(月末の仲値レートによる)。換算替えは外貨建て債権・債務で、短期・長期共に換算替えが必要です。

■ 2.ベトナム

(1)記帳通貨

記帳通貨に関しては、会計法・第 88/2015/QH13 号・第 10 条に、以下の通り規定されています。

● 企業は、通常、ベトナムドン(VND)を記帳通貨としなくてはならない。主な業務収支が1種類の外貨建てとなる企業は、その通貨を選定して記帳通貨とすることができるが、管轄税務局への通知が求められる。ただし、作成される財務諸表(注:税務局に提出する会計報告)は、法により別途定められる場合を除き、ベトナムドンに換算されたものでなければならない。

つまり、ベトナムドンのみならず、外貨を記帳通貨とすることもできますが、いったん記帳本位通貨を選択したら、収支構成の大幅な変化がある場合を除き、原則としてこれを変更することはできません。また、理由の如何を問わず、期央での変更は認められていません(財務省通達・第 200/2014/TT-BTC 号・第7条)。

どのように記帳通貨を決定するかですが、中国同様に、「主要取扱通貨」に基づき記帳通貨を決定することには妥当性があります。つまり、ベトナムドンの債権・債務が大半を占める場合はベトナムドン、米ドル・日本円などの取り扱い、債権・債務残高が大半の場合は、外貨(米ドルもしくは日本円など)とすることで、為替評価損益の発生をミニマイズすることができます。

ただし、記帳通貨の変更へのハードルが高いこと、また最終的には、ベトナムドン換算の財務諸表の作成も必要であることから、ベトナムドンを記帳通貨とするのが一般的といえます。

(2)外貨会計

外貨の計上は、取引発生時の公表為替レート(債権:買いレート、債務:売りレート)を使用して、記帳通貨に換算します。代替する近似レートの使用も認められていますが、日、週、月単位の平均レートに対して1%を超える差異があってはならず、財務状況・事業結果に重要な影響を及ぼすものであってはなりません(財務省通達・第 53/2016/TT-BTC 号)。

ベトナムでは、年次の換算替えが義務付けられます。


中国・ベトナムにおける棚卸資産の経理処理について

中国・ベトナムにおける棚卸資産の会計・税務上の処理について解説します。

■ 1.中国

(1)会計処理

企業会計準則では、棚卸資産は先入先出法、加重平均法(中国語:加権平均法)、個別法のいずれかを採用して原価を確定し、貸借対照表日に原価と正味実現可能価額を比較して、いずれか低い方で評価することを規定しています。

なお、正味実現可能価額とは、「棚卸資産の見積販売価額から関連する見積原価・見積販売費用・見積税金費用を控除した額」と規定されています。

このような形で評価損を計上(評価性引当金を計上)した後に、減損要因が解消された場合は、評価性引当金の繰り戻しが認められます。

(2)企業所得税法

棚卸原価は、先入先出法、加重平均法、個別法のいずれかにより算定することが規定されています(企業会計準則と同じです)。

ただし、税務上、低価法の採用は認められておらず、会計上の棚卸評価損は、原則として損金不算入となります。

ちなみに、税務上の損金算入は毀損・減耗等、実際の損失が発生した場合に認められ、この場合、発生した損失(保険求償・賠償等を考慮した後の損失額)の損金算入が認められます。

(3)計算方法の選択

棚卸の計算方法は、上述の通り、会計と税法で一致しています(先入先出法、加重平均法、個別法が採用可能)。

ここで問題となるのは、「加重平均法(加権平均法)」とは、どのような方法かという点ですが、一般的には月別総平均法と位置付けられてきました。よって、これを採用すると、月中では原価が確定できないという問題がありましたが、最近では加重平均法の範囲として移動平均法の採用を認める税務機関が増えているようです。

よって、税務機関の承諾が得られる前提で、「先入先出法、総平均法、移動平均法、個別法」の採用が可能となります。

■ 2.ベトナム

(1)会計処理

ベトナム会計基準(2002 年1月1日発効)では、棚卸資産は個別法、加重平均法、先入先出法、後入先出法のいずれかを採用して原価を確定し、貸借対照表日に原価と正味実現可能価額を比較して、いずれか低い方で評価することを規定しています。しかし、その後に発行された財務省通達・第 200/2014/TT-BTC 号・第 23 条では、個別法、加重平均法、先入先出法のみ列挙されており、後入先出法は除外されています。

なお、正味実現可能価額とは、「棚卸資産の見積販売価額から、見積改良原価・見積消費原価を控除した額」と規定されています。

このような形で評価損(評価性引当金)を計上した後に、減損要因が解消された場合は、評価性引当金の繰り戻しを行う必要があります。

(2)企業所得税法

ベトナム会計基準との相違はないため、税務上も低価法による期末評価が必要です。正味実現可能価額の合理性が担保されている限りにおいて、損金算入可能となります。

(3)計算方法の選択

棚卸の計算方法は、上述の通り会計と税法で一致しています。よって、「先入先出法、加重平均法、個別法」から選択し、管轄税務局に届け出を行います。

ここで問題となるのは、「加重平均法」とは、どのような方法かという点ですが、各期間の平均と定められていることから、いわゆる「移動平均法」ではなく、「総平均法」が該当します。

以上