外商投資企業の借り入れ枠(投注差)の概念に付いて

2009-02-07

外商投資企業の借り入れ枠(投注差)の概念に付いて

外商投資企業の外貨借り入れ枠は、一定の制限があります。
但し、借り入れ形態にも、「海外の親会社からの借り入れ(外貨債務登記が必要)」、「中国内の銀行からの外貨借り入れ(外貨債務登記は不要)」、「中国内の銀行からの人民元借り入れ」という形式があり、各々の形態によって、借り入れ制限額の考え方が違ってきます。
ここ数年で、最も厳しい借り入れ制限が行われたのは 2005 年の事ですが、当時の状況を踏まえ、外商投資企業の借り入れ制限の考え方を解説します。

1.借り入れ枠と総投資と資本金の関係

外資企業の総投資(会社の設立・稼動に際して必要となる資金の総額)と資本金は、一定の比率に従う事が、「中外合資企業の登録資本金と総投資の比率に関する暫定規定(工商企字[1987]第 38 号)」で要請されています。
元々この規定は、外資企業が行う設備の免税輸入に関する制限という意味合いが強いものでした。
つまり、以前は全ての外資企業(現在は、奨励分類の外資企業のみ)が、総投資の枠内で設備・原材料を免税輸入できたので、総投資額に対して、一定の出資義務を強制する事で、免税輸入額を制限していたという事です。

これが、徐々に外資企業に対する借入制限に準用されるようになりました。
このきっかけとなったのは、2003 年に施行された外債管理弁法(国家発展計画・財政部・国家外貨管理局令第 28 号)で、ここには「外資企業が借り入れる中長期外債累計額、及び短期外債残高の合計は、審査批准部門が批准したプロジェクトの総投資及び登録資本金の差額内でなければならない」事が規定されました。

更に、2005 年早々には「2005 年中国内の外資銀行の短期外債指標査定に関する通知(匯発[2005]4 号)」が公布され、同年 4 月 1 日より、外資企業が国外機構の保証を元に人民元借入を行う場合も、借入可能な金額は、総投資と資本金の差額である事が規定され、外資企業の借り入れに大きな影響を与えました。

この結果として、(2005 年4月?11 月まで)、外資企業に対しては、以下の通りの厳しい借入制限が行われていました。

  1. ? 外貨借入を行う場合は、総投資と資本金の差額の範囲内でしか外貨債務登記を行う事ができない。結果として、外貨借入(厳密に言えば、短期借入残高と中長期借入累計額の合計)が可能な金額は、総投資と資本金の差額の範囲内(投注差)に制限される。

⇒  これは現在でも同じ。

但し、「国内外資銀行の対外債務管理弁法(国家発展改革委員会・中国人民銀行・中国銀行業監督管理委員会令第 9 号)」により、中国内の外資銀行からの外貨借入は、外貨債務登記が不要となった(内資銀行からの外貨借入は、以前より不要)ので、この制限が実際に適用されるのは、海外からの借り入れに限定される。

但し、親会社保証をベースとする場合は、(2)と同様の対応となっており、投注差の範囲ないに制限されていた(これは、現在では規制緩和されている)。

  1. 海外機構(親会社等)の保証をベースとした人民元借入も、上記の範囲内に制限される。

中国の現地法人で、自己の信用力のみで資金調達を行う事が出来る会社は極めて限定されますので、結果として?・?の制限により、人民元であれ外貨であれ、外資企業が借入を行う事ができる金額は、一時的に(2005 年 4 月?11 月)総投資と資本金の差額(投注差)に制限されていました。

●  参考(総投資と資本金の比率)

  • 総投資金額が US$ 3 百万以下の場合

資本金は、総投資額の 70%以上

  • 総投資金額が US$ 3 百万超?US$ 10 百万以下の場合

資本金は、総投資額の 50%以上

但し、総投資額が US$ 4.2 百万以下の場合は、最低 US$ 2.1 百万の資本金が必要。

  • 総投資金額が US$ 10 百万超?US$30 百万以下の場合

資本金は、総投資額の 40%以上

但し、総投資額が US$ 12.5 百万以下の場合は、最低 US$ 5 百万の資本金が必要。

  • 総投資金額が US$ 30 百万超の場合

資本金は、総投資額の3分の1以上

但し、総投資額が US$ 36 百万以下の場合は、最低 US$ 12 百万の資本金が必要。

2.2005 年 12 月に実施された規制緩和(現在も同じ)

上記の通りの厳しい借り入れ規制が、「外債管理の関連問題に関する通知(匯発[2005]74 号)」により一部緩和されました。
同通知の内容は以下の通りです。

  1. 国外機構の保証付き国内借入の外債管理を、「保証提供額」から「保証履行額」に変更する。

  2. 保証履行を実行する場合、債務者は履行後 15 日以内に所管の外貨管理局で外貨債務登記を行うが、登記可能な額(中長期外債累計額、短期外債残高、及び国外機構の保証履行額の合計)は、総投資と資本金の差額(投注差)に限定される。

  3. 国外機構の保証に基づく国内貸付に関する偶発債務登記は、今後、金融機関が行う事とする(現在は、債務者が登記を行う必要がある)。

上記(1)・(2)の結果、国外機構の保証提供、及びそれに基づく国内借入は、投注差の制限を受けなくなりました(海外機構の保証をベースとした借入は、投注差を考慮する必要は無い)。
勿論、現地法人の財政状況が悪化し、親会社が保証履行を実行する場合、この保証履行債権・債務に付いては、投注差の範囲内でしか外債登記できません。
従って、親会社が将来的に回収できる金額は、投注差の範囲内に制限される事となります。

但し、実務的には、現地法人の借入金に対して、親会社が保証履行をするようなケースは、「現地法人を清算する場合」、若しくは「本格的な再建を行う場合」に限定されると想定されます。
前者のケースでは、現地法人清算時に、保証履行債権を清算損として処理する事になりますし、後者の場合には、現地法人の財務体質改善の為に、増資を行う必要が生じます。
結果として、何れの場合においても、現地法人から親会社に対する債務弁済は、必ずしも必要ではなくなります。