外資企業転換後の運営 執筆日:2010年7月7日

2016-10-27

執筆日:2010 年 7 月 7 日

外資企業転換後の運営

Ⅰ.外資企業転換後の来料加工の可能性

深圳・東莞では、来料加工は、加工廠に限定して許可されており、外資企業に対しては認められていません。 これは、法律に定められたものではなく、地方政府の利権確保を目的とした運用です。 つまり、外資企業は、自社で外貨口座が開設でき、加工賃の受領ができる為、地方政府として、諸費用を強制的に徴収する事ができなくなります。 その為、貿易権が取得できず、外貨口座の開設が認められない加工廠に限定して来料加工の許可を与え、地方政府系の貿易会社が商務代理として通関・外貨受領の窓口となる事で、利権を確保しているものです。 2008 年より、省政府の指導の下、来料加工廠の外資転換の動きが本格化し、また、転換に際しては、地方側では、過去の利権(加工賃からの費用徴収)を、別の形(管理費・家賃への上乗せ)で徴収する動きが強まっている中で、運用が変化する可能性はあります。 その一つの動きとして、「東莞市の来料加工企業の操業を止めない三資企業転換に関する作業の補足通知(東外経貿[2009]108 号)」では、鎮級以上の外経貿部門の許可が取得できれば、外資転換後も来料加工の継続が認められる事を規定しています。 但し、現時点では、実例が確認できておらず不透明な状況です。 また、深圳市では関連文書が出ていませんが、対外経済貿易部門(工業貿易局)でのヒアリングでは、外資企業に対する来料加工許可発給に付いては、引き続き、ネガティブな回答が返ってきています。 よって、現時点では、法規はさておき、実務面では、深圳・東莞では、依然として外資企業の来料加工許可取得は難しい様です。 この点、今後、どの様な変化が生じるかが注目されます。

Ⅱ.外資企業転換後(進料加工)の増値税コスト

上記(Ⅰ)の通り、深圳・東莞では、依然として外資企業の来料加工許可取得は難しい状況ですので、外資企業転換後は、進料加工に切り替わるのが通常です。 この際に、注意する必要があるのが、増値税コストの違いです。

1.来料と進料の増値税課税の違い 来料加工から進料加工に転換する事の影響は、増値税課税の対象となる事です。来料加工は、増値税の免税取引ですので、原則として増値税は課税されません。これは、原材料・製品の輸出入、加工賃(加工役務に対しては、営業税ではなく増値税の課税対象)の双方に関して免税措置が適用されるためです。 一方、進料加工の場合は、加工に関する付加価値(輸出 FOB-免税輸入原材料)に関して、増値税が課税されます。 原材料完全輸入・製品完全輸出を前提とした場合、以下の算式で増値税額(不還付額)を見積もり、増値税を納税する必要があります。  不還付額=(輸出 FOB-免税輸入原材料)x(17%-還付率) 納税額=販売増値税(仮受増値税)-仕入増値税(仮払増値税)+不還付額

以上より、原材料完全輸入・製品完全輸出を前提とした場合は、増値税が一切課税されない来料加工に対して、上記の算式で課税される進料加工の方が、税コストは増加する事となります。 但し、国内原材料の調達がある場合、税コストの比較は変わってきます。 それは、原材料を国内調達するに当たっては、増値税が発生しますが、来料加工の場合は、還付控除が認められていないため、調達に際して支払った増値税の全額が原価(コスト)となるのに対して、進料加工の場合は、還付控除が認められるからです。 国内原材料の調達がある場合を例にとり、来料加工と進料加工の増値税コストを比較してみます。

<前提> 国内調達原材料  50 輸入原材料  50(来料の場合は無償取引) 製品輸出  200(来料の場合は無償取引) 国内原材料調達時の増値税  8.5 当該製品の増値税還付率を 13%とする。

①  来料加工の場合 来料加工の場合、国内調達時の増値税 8.5 は、そのまま原価となります。 これは、免税取引に際して支払った増値税である為、還付控除の対象とはならないためです。

②  進料加工の場合 進料加工の場合、国内調達時に支払った増値税(8.5)は、仮払増値税として処理します。 一方、不還付税額は、(200-50)x(17%-13%)= 6 よって、仮払いした増値税の内、8.5-6 = 2.5 が還付され、増値税コストは不還付税額である 6 となります。

以上より、国内原材料の調達を行った場合、進料加工の方が、来料加工よりも税コストが有利になるという逆転が発生します。

Ⅲ.転廠に関わる注意点

1.転廠の運用 来料加工から進料加工に転換する場合、転廠の適用が困難となる場合があります。 これは、来料は無償取引である為、来料加工間の取引は、価格が問題とはならないのに対し、進料加工の場合は、有償取引が前提となるので、価格の統一が要求される(加工貿易保税貨物の税関区を跨いでの深加工結転に関する管理弁法:税関総署[2004]第 109 号)事です。

例えば、以下の場合、「加工貿易企業 A から香港企業 A に対する輸出価格」、「香港企業 B から加工企業 B に対する価格」、「加工企業 A・加工企業 B 間の転廠価格」の全てを、1,000 で統一する必要がでてきます(当然、香港企業 A・B 間の価格も 1,000 とする必要がある)。 よって、香港企業 A は、製品販売では利益を取れない事となりますし、香港企業 A・B 間には商社等が介入する事ができなくなります(介入した場合、利益の確保ができなくなります)。 これを理由として、進料加工転換後は、敢えて転廠をせず、香港・物流園区等に輸出した上で、再輸入する事を余儀なくされるケースが少なからずあります。

香港企業 A→ 1,000 → 香港企業 B     香港   ↑           ↓ 1,000 1,000     ~~~   ~~~~~~~~  ~~~ (製品輸出契約)   (原材料輸入契約)     中国   ↑           ↓       加工企業 A   ⇒1,000⇒  加工企業 B (転廠契約)

2.転廠に関わる増値税 来料加工企業と進料加工企業では、増値税の課税方法が異なる事は、上記(第三章-Ⅱ)で解説した通りです。 既に解説した通り、原材料の全量輸入・製品の全量輸出を前提とした場合、増値税課税が免除される来料加工の方が、増値税コストは少なくなります。 一方、国内原材料を使用する場合(国内調達による増値税支払がある場合)は、来料加工は仕入増値税の全量がコストとなるのに対して、進料加工であれば、控除・還付が認められます。 その為、国内原材料の使用を開始すると、進料加工形態の方が、増値税コストを抑えられる場合もありますが、転廠を行う場合は、オペレーションに注意する必要があります。 これは、広東省では、転廠に関して不徴収・不還付方式が採用されており、国内原材料を使用した製品を転廠する場合、転廠製品に相当する仕入増値税が、原料コストとなるという問題があるためです。

①  国内調達原材料に関わる増値税と転廠 加工貿易企業間の転廠に関する増値税の課税方式には、国内課税方式(転廠を国内取引として増値税課税する方式)と、不徴収・不還付方式の二種類があります。 国内課税方式とは、転廠を国内取引と見なして、増値税の課税対象とする方法であり、不徴収・不還付方式とは、転廠販売に関して増値税を課税しない一方で、転廠販売に関して支払った仕入増値税も、一切還付・控除を行わない方式を指します。 二種類の方法の適用に付いては、地域により異なりますが、広東省(珠江デルタ全域)では、不徴収・不還付方式が採用されています。

不徴収・不還付制度は、国内原材料の調達が生じない場合(仕入増値税が発生しない場合)は、転廠に関わる増値税が発生しないため有利となります。

一方、転廠を行う場合、それに関連する仕入増値税がコスト(原価)となるという問題があります。 具体的には、以下の公式で、原価計上する仕入増値税を毎月計算する事になります。

計算式 コスト計上税額= 当月の仕入増値税額x 当月転廠売上高/当月総売上高

②  転廠の場合と輸出後再輸入の場合の税コストの比較 広東省では、不徴収・不還付方式が採用されている為、国内調達した原材料を転廠すると、関連する仕入増値税の還付・控除権が喪失してしまいます。 一方、輸出すれば、輸出還付が適用されますので、場合によっては(物流・通関コストも関連しますが)、転廠しないで、香港・物流園区に輸出した上で、再輸入した方が、コストが安くなる場合があります。 双方の増値税コストを、以下、比較してみます。

計算例 ・輸入原材料 700・国内原材料 300 を使用して加工した製品を、1,200 で転廠、若しくは、輸出する。 ・国内原材料の調達に際して、300 x 17%= 51 の増値税を仮払い。 ・製品の還付率は、13%とする。

1)転廠の場合 上記の例では、全販売が転廠である為、仕入増値税 51 がそのまま税コストとなります。 ・ コスト計上税額=  51 x 1,200/1,200 = 51

2)輸出の場合 上記の例では、仕入時に 51 の増値税を支払い、輸出時に 31 の還付を受ける事になります。 結果として、税コストは 20 となるため、転廠する場合より税コストは低くなります。 ・ 不還付額=(1,200-700)x(17%-13%)= 20 還付額= 51-20 = 31

Ⅳ.資金負担と差額核銷

来料加工形態から外資企業(進料加工)形態に変更する事で、大きく変化する事の一つが資金負担です。 来料加工の場合は、中国内の来料加工廠は、無償で原材料の支給を受けますので、資金負担は生じません。 よって、外国企業側で資金調達を行いますが、進料加工に転換する場合、有償決済が原則となりますので、原材料を調達してから、製品輸出代金を回収するまでの間の資金負担が、進料加工企業側で生じる事となります。 この様な資金は、中国内での借入、親会社からの借入等の形で調達する事になります。 また、輸入代金決済時期と輸出代金決済時期を調整して、中国側での資金負担を抑える方法も検討に値します。

それ以外の方法としては、差額核銷方式の採用が挙げられます。 この方法を採用すれば、資金の動きは来料加工と同様、中国内での付加価値が、外国企業から進料加工企業に支払われるだけとなりますので、来料加工と同様、資金負担を外国企業に集中する事ができます。

①  差額核銷方式とは 進料加工における核銷(通関実績と外貨の受け払いの消し込み照合制度)には、全量核銷と差額核銷の二種類の選択適用が認められています。  全量核銷とは、原材料輸入・製品輸出の各々に関して全額で決済を行った上で、核銷を行う方式です。  差額核銷は、原材料輸入代金と製品輸出代金を相殺して差額決済を行い、差額で核銷を行う方式です。

差額核銷方式を採用する場合、「輸出外貨収入核銷手続の簡素化問題に関する通知(匯発[2005]73 号)」により、外貨管理局の許可は免除されており、届出のみで対応する事ができます(以下、参照)。  輸出企業が、「進料加工」、「進料深加工」、「三資企業進料加工」方式で輸出を行い、輸入材料の相殺核銷を行うにあたり、事前の外貨管理局での登録・審査手続を不要とする。輸出企業は、商務主管部門が認可した加工貿易契約(初回の相殺核銷を行う場合に提出)、輸出通関書、核銷単、差額部分の核銷専用書類、及び、対応する輸入通関書類などをもとに、核銷手続を行う。

②  差額核銷方式採用の利点と問題点 差額核銷方式を採用する事のメリットは以下の通りです。  資金の流れが、外国企業(香港企業等)から進料加工企業という一方向となり、且つ、理論的には来料加工賃の送金と同様となるので、進料加工企業の資金負担を無くす事ができる。  差額核銷方式であれば、付加価値のみの入金で、外貨管理上の消し込みができるので、一部無償原材料がある場合でも対応できる。

一方、差額核銷方式は、全量核銷方式に比べて管理が煩雑で、消し込み漏れが生じやすい(会計上・外貨管理上の混乱が生じやすい事)という問題があり、この点を考慮の上、採用するか否かを判断する必要があります。