合併メリットと分公司制度の変更【水野コンサルタンシー中国ビジネス情報】ダイジェスト版Vol.221

2024-04-15

【中国ビジネストレンド】合併メリットと分公司制度の変更

ここ数年、組織再編、特に、合併に関するご相談が多いのですが、合併の意義と、最近の実施事例増加の一因となっている、分公司制度の変更について解説します。

1.合併にはどのようなメリットがあるか?

合併が検討される理由として、代表的なものは以下の通りといえます。
1)管理部門が共有できるため、中長期的にみれば人員の効率化が図れる。
2)本支店間で資金移動ができるため、資金調達を本店(総公司)に一元化でき、資金の効率化が図れる。
3)黒字拠点、赤字拠点がある場合(且つ、黒字額の方が大きい場合)、合併による統合で赤字拠点を減らすことができる。

以上の通り、効率化の促進が主たる理由となります。
勿論、1)に関していえば、労働契約法には、「使用者に合併が生じた場合、元の労働契約は引き続き有効であり、労働契約の権利と義務は、存続会社が継承する」ことが規定されています。つまり、合併を事由とした解雇はできませんが、中長期的なスパンでみれば、人材の効率化(特に管理部門人員の共有)による、従業員数の削減ができるという趣旨です。
一方、注意を要するのは、就業規則の統合などであり、合併する会社間で雇用条件に著しい差がある場合、慎重な対応が必要になります。

2.どのような分公司制度の変更で合併が容易になったのか?

合併事例の増加は、分公司制度の変更が後押ししている部分もあります。
具体的には、以下のような内容です。
1)分公司も税関登記ができるようになり、貿易取引の当事者になることができるようになった。
2)総公司にない経営範囲を、分公司が持てるようになった。

1)に関していえば、かつては分公司は税関登記が認められず、国内取引のみが対応可能でした(増値税の一般納税人登記は以前より可能でした)。
このため、合併により本支店関係になったとしても、輸出、輸入は総公司に集約する必要があり、合併後は商流の変更が必要でした。
これが、「通関単位登記の一層の便利化に関する事項の公告(税関総署公告2018年第191号)」により、税関登記が認められ、外貨決済・増値税輸出還付も可能となっています。よって、合併後もそれまでの商流を変更することなく、活動が行えるようになりました。

2)についていえば、例えば、存続会社が一般区(非保税区域)、消滅会社が保税区域のような場合、合併に大きな支障がありました。
かつては、分公司の経営範囲は、総公司の経営範囲内に限定されました。勿論、最近では、経営範囲の追加、変更自体は、比較的容易に対応できますが、存続会社が一般区、消滅会社が保税区域の場合は、話が違います。
一般区の企業は、保税取引の許可が取得できないため、以前の制度では、消滅会社が保税区域にある場合、合併すれば保税取引は継続できませんでした。というより、保税区域に分公司を構えること自体が困難で、合併の支障となっていました。
これが、2022年以降、分公司の経営範囲を総公司の経営範囲内とする必要がなくなり(総公司には無い項目を追加することができるようになった)、この問題が解消されました。
これは、「企業経営範囲登記管理規定(国家工商行政管理局令2015年第76号)」が廃止され、それまでの、「分支機構(分公司)の経営範囲は、所属する企業(総公司)の経営範囲を超えてはならない」という縛りがなくなったためです。
更に、保税区域は、以前は分公司の受入れを嫌がるケースが多かったのですが、この状況も改善されてきています。
よって、一般区にある企業が、保税区に分公司を開設し、保税取引を実施することができるようになっています。

3.合併作業の注意点(手続きを間違えると拠点維持ができなくなってしまう)

合併に際して注意すべき点(誤解が多く見受けられる点)は、「合併手続において、消滅会社が分公司に自動的に転換される訳ではない。合併の手続き過程で、消滅会社は単純に登記抹消が義務付けられるため、事前に何の対応もしていないと、その地域の拠点が無くなってしまう(維持できない)」というものです。
合併とは、飽くまでも消滅会社の資本金・債権債務・権利義務・従業員を、存続会社に移管・統合する手続きであり、これらを実施した後に、消滅法人の登記を抹消する必要があります。つまり、何もしないと、消滅会社所在地の拠点は消滅し、当該地での活動を維持することはできません。
その為、まず存続会社の分公司を、消滅会社所在地(通常は、同一住所)に開設し、先に消滅会社の事業・従業員を新設の分公司に移管してから、消滅法人の登記を抹消する必要があります。

水野コンサルタンシーグループ代表

水野真澄