中国における外資企業の資本金払込未了での清算 執筆日:2019年9月11日

2020-05-31

中国における外資企業の資本金払込未了での清算

会社法・三資企業法の改定により、資本金の払い込み期限に関する制限が撤廃されたのは、2014 年 3 月です。では、資本金全額を払い込んでない状態で、期前解散(経営期限を満了せずに、撤退)する場合、残額の払い込みは必要でしょうか。

法律と実務について、解説します。

1.資本金制度の改定

会社法による資本金制度の変更は、何度か実施されてきました。最低資本金額については、2006 年 1 月の改定により、(50 万元より)3 万元になり、それが、2014 年 3 月の改定により、最低資本金額が撤廃されました。

但し、外資企業の場合は、もとより、会社法の最低資本金で設立されることはありませんでしたので、これよる特段の影響は有りません(注)。

生産型企業の場合は、使用する工業用地の面積・場所に応じて、投資密度(使用面積当たりの総投資額)が設定されているため、それによって、総投資額が決定され、更に、総投資と資本金の比率(工商企字[1998]38 号)により、最低資本金額が決まります。

また、サービス性の企業は、活動内容(必要資金)、その他、業法の規定(最低資本金制限がある業種は、徐々に減らされてはいます)により、資本金が決まるため、会社法の最低資本金が、実際に使用される例はありませんでした。

ただ、2014 年の会社法改定で、外資企業が、大きな恩恵を受けられるようになったのは、資本金払込期限の撤廃でした。

改定前の会社法では、初回払込を、登録資本金の 20%以上として、残額を、2 年以内に払込ことが要求されてしましたが、改定により、この制限が撤廃されました。

つまり、会社定款に、経営期限内に払込と記載すれば、その期限内に、資金需要を見ながら払い込むことができます。

勿論、全額を払い込んでいない状況でも、(特に、定款の払込期限に抵触している訳ではないため)利益が計上されれば、出資者への配当も可能です。

2.全額払い込んでいない状態での撤退

資本金払い込み期限の状況(外資企業を含む)については、上記1の通りですが、ここで疑問が生じるのは、「資本金払い込みを完了しないまま期前撤退をする場合、残額の払い込みは要求されるかどうか」という点です。

払込期限が撤廃されても、中国の資本金制度は、依然として「登録資本金制度」であり、授権資本金制度(注 2)とは異なります。つまり、払い込むべき資本金額が定款に規定されており、2014 年の改定で緩和されたのは、払い込み時期だけです。

注2

授権資本金制度とは、定款に規定した発行株式の範囲内で、取締役会決議に基づき、随時、新株を発行できる制度をいいます。

「経営期限内に払い込む」とコミットした資本金を、払い込まずに、会社を清算できるかどうかについては、根拠となる法律文書がなく、実務運用に疑問が残る状況でした。

但し、会社法改定から 5 年経過する内に、未払い込み状況での清算(残額の払い込みを要しない清算)の実例が、少なからず生じ、少なくとも、払い込み無しでの清算が認められる可能性が高い(認可機関での事前確認が必要)という状況が明確になってきました。

また、法律的にも、「企業抹消の円滑化推進に関する通知(国市監注[2019]30 号)」・付属文書2において、企業清算に際して、残余財産が債務弁済に不足する場合、「未払い込みの資本金の範囲で、出資者が弁済義務を負うべきである」との立場を明確にしています(中国の外資企業は、一般的に、有限責任会社形態で設立されるため、出資者は資本金の範囲で責任を持てばよいが、資本金の未払い込みの範囲内で、出資者は弁済義務を負う)。

つまり、債務弁済に支障がない限りにおいては、資本金未払込部分の支払なく清算可能という点が、逆に確認できる状況となっています。