日本からの水産品輸入再開に関する報道と生活

2025-10-18

日本からの水産品輸入再開に関する報道と生活

2025年6月29日に、税関総署より「条件付きで日本の一部地域からの水産品輸入を再開することに関する公告(税関総署公告2025年第140号)」が公布され、日本からの水産品輸入が再開されました。

実務を踏まえると、中国に食品輸出する会社は、中国税関での登記が必要であるため、若干の時間を要した上で、再開されることになっています。

この中国税関での登記は、過去に、中国に水産物を輸出していた会社は対応していましたが、2023年の輸入禁止の結果、登記が無効になっているため、再度の手続きが必要となるものです。

税関公告が、「条件付きで日本の一部地域から」という記載になっているのは、10都県(福島県、群馬県、栃木県、茨城県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県、東京都、千葉県)からの輸入は、引き続き認められない事(一部地域の意味)。更には、水産品の輸入に際しては、日本で発行された衛生証明書、放射性物質検査合格証明書、及び原産地証明書の提出が要求される事(条件付きの意味)によるものです。

輸入再開を踏まえての中国の報道ですが、国として方針決定したものですので、冷静な記載に留まっています。

輸入再開の背景として、2024年9月、日中両国は初めて調査の合意をし、2024年10月、2025年2月、4月、6月と、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの下で、中国の研究機関が福島を訪れ、排出口付近の海水と生物サンプルを採取。サンプル中の放射能濃度に異常がなかったことから、輸入再開に踏み切ったと報道しています。

ただ、中国では、日本食品に関する警戒心から、放射線検出器の売上が、2年間で2,500倍に急増したことや、本件とは関係ないとはしながらも、2025年4月に栃木県で発生した弁当の食中毒事件(報道では異物混入事件と記載)を引き合いに出して、日本の食品安全システムに対する警戒が生じていると報じています。

この点は、日本の報道が中国の食品安全の不安を報じるように、どこの国も、他国の情況にはセンシティブ(否定的)になるものです。

因みに、2023年8月24日に、日本からの水産品輸入が禁止された時、筆者は上海の喫茶店にいましたが、隣席の中国人客(鮨屋のオーナー料理人)が、「とんでもないことになった。もうだめだ」と嘆いていたのが印象的に残っています。

とは言え、その後も、その店は問題なく営業していますし、アピタなど小売店の海鮮品売り場も、翌日から北欧、ニュージーランド等の代替品に置き換わり、殆ど影響を感じさせませんでした。

報道では、禁輸措置の間、ロシア産タラバガニ、ノルウェー産サーモンが日本品に代替し、また、2023年のペルーからの水産品輸入は137.4%増加。インドネシアは42%、英国は150%、アルゼンチンは200%増加したと報じています。

現地で生活している筆者にとっても、輸入禁止されている頃でも、特に不便は感じておらず、再開に、それほどの感慨はないというのが正直な気持ちです。

とは言え、輸入が再開されれば、対中販売は増えていくでしょうし、これは、日本の食品会社にとっては、販路拡大(選択肢の増加)という意味で良いことです。

対中販売だけでなく、米国向けについても、昨今の動向を見れば分かる通り、特定国に販路・供給源を絞ることのリスクが増大しています。複数の選択肢を確保し、リスク分散することが望ましく、その意味で、日本の販売会社も、過去の輸入禁止の教訓を活用しながらも、この流れをうまく活用し、経営基盤を強化してほしいと思うところです。

水野コンサルタンシーグループ代表 水野真澄