茅台酒の業績と日中の報道

2025-10-19

茅台酒の業績と日中の報道

1.茅台酒の決算を日本の報道はどう報じたか

2025年8月14日付The Daily NNAでは、「白酒の茅台、25年中間期9%増益=伸び鈍化」と題して、貴州茅台酒(貴州省遵義市)の決算を報じています。ここでは、「2025 年6月中間期決算は、純利益が前年同期比8.9%増の454 億296 万元(約9,360 億円)。売上高は9.1%増の893 億8,935万元。澎湃新聞によると、純利益、売上高ともに中間期の過去最高を更新したが、増益幅、増収幅は15 年以降で最低の水準」と、事実を淡々と報じています。

これに対して、8月15日付けのTBS NEWS DIGでは、「中国の高級酒茅台酒製造企業。売上高などの伸び率が2015年以来の低水準に。公務員の倹約令影響か」と題し、「中国メディアが報じた中国の酒造大手・貴州茅台酒の今年の上半期の決算は、売上高が前の年の同じ時期と比べ9.2%の伸びとなり2015年以来の1桁台、純利益も2015年以来、最低の水準」と、増収・増益には触れず、伸び率の低下だけをピックアップして、業績不調を強調しています。

事実としては、売上高も純利益も、中間決算としては過去最高を計上しているのですが、TBS NEWSでは、伸び率(前年度の売上成長は15.66%増)のみを取り上げ、不調を強調しているのですが、筆者自身、メディアとの付き合いは浅くないため、報道が、自分がどう伝えたいかの結果ありきで材料をピックアップするのは良く分かっています。売上・純利益が伸びても、伸び率低下があれば、そこを捉えて不調・苦戦と強調するのは、よく有る報道手法です。

昨今、日本の報道姿勢を見ると、中国に関してはネガティブ報道ありきの姿勢が見受けられます。これも中国経済停滞の印象付けを目的とした、いつもの報道かと思いましたが、検証のために中国の報道を見ると、日本以上に辛辣な記載であふれており、興味を惹かれました。同時に、日本の報道では見られない考察・分析も多くありましたので、概要を、以下紹介します。

2.中国の報道

① 中間決算概要と政策の影響

8月13日付けの時代財経では、同社の上半期決算概況を紹介するとともに、厳しい環境下でも、上半期時点では年間目標の9%成長を達成したことを評価し、環境に基づく政策の実施が、堅実な実績に結びついたと、アナリストのコメントを紹介しています。

一方、8月14日付の和訊網では、「白酒の成長は、短期的には政策、中期的には経済、長期的には人口に左右される」とのアナリストコメントを引用し、茅台社の今期業績には、5月18日公布の「党政府機関の倹約励行と浪費反対に関する条例」が影響を与えると指摘しています。

この影響を考察すべく四半期決算を見ると、条例公布前の第一四半期は、売上高514億元(前年同期比11.07%増)・純利益268億元(11.56%増)。一方、公布後の第二四半期では、売上高397億元(7.26%増)・純利益185億元(5.23%増)と落ち込んでいます。

公布が5月18日ですから、影響はほぼ一か月。それでこの落ち込みですので、影響の大きさがうかがい知れます。

更に、業界では、先払い後出荷が慣行となっているため、契約債務(商品代金前受け金)残高で今後の業績が推測できると指摘し、今年度上半期末の前受け金残高は56億元で、前年同時期の96億元から大きく減少していると、警鐘を鳴らしています。

② 価格の下落と投機性

茅台酒の価格下落についても、中間決算発表前から、多くの報道がなされています。

茅台の代表的ブランドの「飛天茅台(55%)500ml」の価格は、昨年9月21日には2,390元でしたが、今年3月26日には2,170元。9月23日には1,760元に下落しており、心理的防衛ライン2,000元を割り込んでいます。茅台社も、販路の選定や廉価販売規制などで対抗していますが、価格下落を食い止めるには至っていません。

価格下落の要因は、政策や経済環境も有りますが、投機目的の高級白酒購入が無視できません。何不美食というインターネットプラットフォームでは、2025年の茅台酒の社会在庫は1.2億本であり、その60%以上が金融酒。つまり、実消費ではなく、財テク目的での備蓄であると報じています。この様な財テク備蓄は、「買えば儲かる」という神話があるが故ですので、環境が変われば状況は一転します。現在では、損失の拡大を恐れた転売業者の狼狽売りにつながっています。この様な実需を越えた在庫が、先行き動向に過敏に反応し、価格に反映されていると言えます。

3.総論

日本でも転売業者が問題になっていますが、中国の投機熱はそれ以上とも言え、転売目的購買が、商品の実際価値と需給を狂わせることが有ります。筆者は20代の頃から、サントリー山崎12年のファンで、数十年飲み続けてきました。最近は少し落ち着きましたが、10年ほど前のブームも有り、一時期はなかなか飲めず悔しい思いをしました。愛好者が増えたのであれば我慢せざるを得ませんが、投機目的の購入・転売が、供給を遮断し、価格を吊り上げるのには怒りを覚えていました。

今回の茅台酒の記事を見て、筆者が感じた投機に対する憤りと、飲めなくなった高級酒への恨み節も垣間見えた気がします。

中国の報道を見ても、規律の一層の引き締めと、過度な浪費の規制方向で政策が進んでいるのは確かですので、茅台を始めとする高級白酒、高級食材に対しては、逆風が吹いているのは確かです。

かつて高級白酒に向かった投機は、結局、他に向かうのでしょうが、この様なマナーを忘れた投機・転売には規制が望まれます。

また、インターネット記事にも書かれていましたが、長いレンジで見ると、価格は実際価値に収束します。右肩上がりの成長が要求される資本社会では見失われがちになりますが、自腹で購入する愛好者を確保し、満足を提供することが、本来的な企業戦略であるという気がします。

水野コンサルタンシーグループ代表 水野真澄